2009年4月9日
青森県知事 三村 申吾 様
2009年「4.9反核燃の日」
私たちは、4月4日に『2009年「4.9反核燃の日」全国市民集会』を開催しまし
た。その場に結集した、全国の仲間と共に、六ヶ所再処理工場は本格操業入りさせるこ となく停止することを求めることを確認しました。そこで、以下に理由を述べて、要請 書及び公開質問とします。
さて、現在もなお本格操業見込みが立たない六ヶ所再処理工場は、ウラン濃縮工場、
低レベル放射性廃棄物埋設施設と一緒に、電気事業連合会が1984年4月20日に下北半 島に立地要請したものです。その後、当時の北村青森県知事は、県民の声を聞くそぶり を見せつつ、六ヶ所村のむつ小川原開発用地内に建設することに合意して、1985年4月 9日開会の青森県議会全員協議会で受け入れを表明しました。原子力発電所に比べて膨 大な放射能を取り扱う施設なのに、その受け入れまで1年も掛けない、駆け足での受諾 でした。
なお、この歴史経過については、必ずしも正しくないことが明らかにされています。
実はむつ小川原開発用地が売れずに困っていたので、核燃事業を青森県に誘致したとい う事実が、当時の山内副知事が生前に書き残した、「回想 県政50年」に示されてい ます。それによると、電気事業連合会の立地要請は、北村知事と予め示し合わせた結果 だというのです。つまり、県民を騙して進めたというのが事実だったのです。
その後、核燃施設はどんどん建設・操業が始まりましたが、いま振り返ってみると、
どの事業も事実上破綻しているのが明らかです。ウラン濃縮工場は既に殆ど停止してお り、次期後継機開発は失敗し、次々機が2010年から運転できるかどうかも分からない状 態です。まして、濃縮機器のリプレースで出る核のゴミの行き場も決まっていません。 また各原子力発電所では低レベル放射性廃棄物の搬出が遅れ、埋設ピットが野晒しの 状態で劣化が始まっています。そして、海外返還の高レベル放射性廃棄物のフランス分 は満杯だが、イギリス分にいたっては今年の下期に返される予定ですが、それとて実現 する見込みが疑われます。更に1997年12月に竣工予定だった再処理工場は、竣工前最後 のアクティブ試験で、高レベルガラス固化体の製造不調が続き、竣工が8月に延期さ れ、最新の情報では、それさえも守れないと予想されます。特に、再処理工場内の度重 なるトラブルが続き、原子力委員長でさえも、呆れ果てている様子が原子力白書に見て 取れます。
これまでの核燃施設の事業の進捗によって、経済的なメリットを感じていた県内関係
者も、ここまでトラブルが続くことに、不安が隠せなくなっています。まして、国の安 全審査を全面的に信じてきた青森県や周辺自治体は、核燃料税が大幅に減収し、わずか な交付金を周辺自治体で奪い合う始末です。
三方を海に囲まれ、山の恵みにも恵まれ、農業も盛んな青森県は、自然との共存を大
事にして、今後とも豊かな恵みを享受できるはずです。それなのに、核燃施設との同居 を進めていけば、核のゴミに汚染されたイメージが先行してしまいます。
以上見てきたように、まさに故・北村知事が核燃サイクル施設を受け入れたことの間
違いが、ここにきて明らかとなってきました。それなのに、貴職は方向転換をしようと していません。それに、日本原燃の幹部の多くは電力会社からの出向で、現場の仕事を 把握するものが皆無に近かったことが明らかとなっています。勿論、そのような無責任 な面々が、ここまで進めて来た核燃サイクル施設の失敗の責任うぃ一切取らずにいるの です。
電力業界内部には、原子力ルネッサンスが合言葉のようですが、「もんじゅ」も「六
ヶ所再処理工場」も事実上失敗しています。嘘で固めた「原子力が環境に優しい」とい う宣伝を繰り返した彼らは、その過ちを真摯に反省すべきです。
そして最近になり、下北半島に幾つもの活断層が見つかっています。これまでの安全
審査では断層はあっても活断層ではないとされてきましたが、調査が進むに従い、活断 層と認定されています。いかにずさんな調査が行われてきたかが、改めて明らかになり ました。それなのに、仮に地震が起きても大丈夫だとして、施設そのものは破壊を免れ るとしています。しかし、これまで地震被害を受けた原子力発電所を見ると、地震が起 きた後に、耐震強化策が実施されています。それを反省すれば、下北半島の原子力施設 でも耐震対策を強化すべきですが、そのような安全対策を国も事業者も行おうとしない し、貴職も求めてはいません。この姿勢を真っ先に改めて、将来起きるかもしれない大 地震に備え、安全対策が取れない原子力施設に操業の許可を与えず、安全協定を破棄す る等の処分を行うべきです。
なお原子力安全・保安院は4月2日、六ヶ所 再処理工場で起きた高レベル放射性廃
液の漏えいトラブルで、原子炉等規制法に基づく5件の保安規定違反が見つかったとし て、日本原燃に原因究明と再発防止策を今月中に報告するよう文書で指示したことが分 かりました。実に杜撰な体質に、国でさえも呆れているという実態が明らかになりまし た。
以上のことから、私たちは次のことを貴職に求めると同時に、公開質問状を添付する
ので、可能な限り早急に回答することを強く求めます。
記
1.六ヶ所再処理工場の試運転及び本格操業の中止を求めること。
2.再処理工場の操業を前提とした安全協定の準備をしないこと。
3.核燃4施設について、安全に操業し得るとした専門家の報告書を、改めて批
判的な専門家を交えて検証しなおすこと。
4.最近明らかにされた活断層について、それが下北半島の原子力施設にどのよ
うな影響を与えるのか、公開討論会を県主催で行うこと。
5.アクティブ試験中のトラブルについて、早期に県民説明会を開催すること。
公開質問
1.経済効果について
核燃サイクル事業が当初計画通りに進行していた場合の経済効果をどの程度に見込
み、実際にはどの程度の経済効果があったと判断しているのか。
核燃料税、事業税、経済波及効果に分類してお示しください。
2.核燃事業の進展について
1985年4月9日の受け入れ表明後、青森県が委託した専門家により、核燃サイ
クル事業は問題なく実施できる旨の報告書が作成されました。そのときの見込みに比 べれば、現状はあまりにお粗末な結果ではなかったですか。このような評価を下した 専門家の判断は、今でも正しかったと思っていますか。
3.六ヶ所再処理工場の放出放射能について
アクティブ試験開始以降、日常的に大気と海洋に放射能が放出されています。この
放射能による影響について、岩手の漁民が心配していますが、青森県内の農業者、水 産業者にも不安が広がる可能性があります。貴職が選定した原子力産業に近い学者ば かりでなく、原子力利用に否定的な科学者も交えて、公開討論会を行うことを考えて いただけませんか。
4.青森県の食の安全について
三沢市では「ほっき丼」を名物として売り出しています。しかし、ほっき貝の獲れ
る漁場は、六ヶ所再処理工場の海洋放流管からの放射性廃液が拡散している場所でも あります。
日本原燃(株)は、大気からも海からも放出する放射能の影響は極めて小さいとし
ていますが、果たしてそれを信用できるのでしょうか。岩手県の沿岸漁民は、養殖栽 培のワカメへの影響が出ないこと、風評被害が出ないことを願っています。しかし、 試験操業ながら、大量の放射能が放出されています。
県としては、三沢でお客に提供されている「ほっき丼」を放射能測定器で測り、ど
のような数値が出るのかを、明らかにすべきと思いますが、このようなことはされま したか。
また、六ヶ所村の海産物等についても、個別に測定はされていると思いますが、実
際に提供されている食品を測定し、定期的に数値を発表すべきと思いますが、そのよ うな体制を今後は用意されるのでしょうか。
5.下北半島の活断層について
最近、新聞報道だけでも、多くの活断層が発見されたという報道が目につきます。
これまでの調査では分からなかったが、最新の方法で発見された例もあります。その ような状況から、特に六ヶ所再処理工場の敷地の真下に「六ヶ所活断層」があるとも 言われています。このような状況を考えれば、青森県民の生命と財産を守るべき貴職 が、これまで活断層が発見されなかった経緯を明らかにすると同時に、それが下北半 島の原子力施設に影響を与えるか否かを真摯に検証(原子力事業の推進学者と反対す る学者を交えて)するための審議会等を立ち上げるべきと思われますが、そのような 考えは無いのでしょうか。
6.耐震裕度の違いについて
柏崎刈羽の原発震災以降、他の原子力施設の耐震裕度が格段に上がっていますが、
下北半島の原子力施設だけは450ガルで統一されています。この根拠は何処にある と思いますか。
7.原子力情報の公開について
故・北村知事も前木村知事も、原子力事業に関連する資料を公開する方向で青森県
政を進めてきました。ところが貴職になってからは、積極的な情報開示に取り組んで いないと思われます。例えば、行政資料コーナーに、最新の安全審査書について配置 されていません。県民にとって知りたい情報を、貴職が非公開とすることは間違って います。確かに、原子力施設の安全性については一義的に国が責任が持つのかもしれ ませんが、貴職は県民の生命と財産を預かる立場であります。安全を担保する資料を 県民が見れない状況を放置することは、貴職自身にその責任を取る覚悟がないと見え ます。早急な改善をするつもりはありませんか。
8.原子力防災資機材が劣化していた問題について
県の原子力防災の資機材が期限切れであったという報道がなされた。その際に、管
理はされているので、実際の運用には問題がないという認識が県部局から示された。
しかし、万が一の事故に備える資機材の耐用年数等がしっかりと把握されていれ
ば、処分すべきものと使うものを混同する状況で保管しておくのはいかにも杜撰では ないか。
今、正に大事故が発生するかもしれないという緊張感のなさが、そのような杜撰な
管理を容認しているとしか思えない。
そこで、資機材の管理については、原子力防災の任に当たる職員の生命を預かると
いう重みを持って、徹底すべきであると思われるが、年間の補充予算はどの程度に計 上されているのか。また、職員の教育訓練に際し、放射能の問題をどのように教育し ているのか。
9.原子力防災計画の充実について
いま、六ヶ所再処理工場の本格操業を前提として、各病院が被曝者の受け入れ態勢
について、日本原燃(株)と協定を結んでいることが報道されます。しかし、その内 容については、公開されてはいません。既存の県の原子力防災計画との整合性も必要 となるが、命を守られる立場の県民に情報が公開されないのでは意味がない。
県の原子力防災計画もだが、各病院と結んでいる協定の内容についても、貴職が責
任を持って公開すべきと思いますが、そのような考えはないのでしょうか。
10.日本原燃(株)への信頼度について
再処理工場の操業が10年以上も延びていることもだが、次々と発生する事故・ト
ラブルは、初歩的なマニュアル違反が大半です。本来の作業手順を踏まえれば、起き るはずがないのに、次々と起こしてしまったのです。その上に、今度は原子力安全・ 保安院から文書による指摘まで受けました。このような日本原燃(株)をまだ信頼す るのは、なぜでしょうか。
核燃料税が欲しいからですか、核燃事業税が欲しいからですか、県民の多くが働く
雇用効果があるからですか。更には、青森県全体に与える経済効果が高いからでしょ うか。
しかし、再処理技術の不足が明らかな日本原燃(株)に、これ以上、再処理事業を
行わせるのは大事故誘発を待つだけだと思います。
信頼に足ると思われる点を、県民に分かり易く説明できませんか。
11.再処理工場への雇用斡旋について
貴職は再処理工場内でのメンテナンス作業員に県内労働力を充てたいということ
で、各企業にも働きかけて、メンテナンス部門への斡旋を行っています。
再処理工場内のメンテナンス作業は、放射線の影響が強く、なるべくならば労働現
場としては選ばれないというのが実際です。
それを無視して、敢えて、危険な職種に青森県民を雇用させるのは、なぜでしょう
か。
なお、六ヶ所再処理工場でも働いた方が悪性リンパ腫で亡くなった後に、労災申請
をしても受け付けてもらえず、3年掛かって認定されたという事例が昨年明らかにさ れました。
このような悲劇を、青森県民に繰り返させないことを、貴職が率先しても止めるべ
きと思いますが、その逆の路線を選んでいます。なぜ、そのような職種に雇用を斡旋 し続けるのでしょうか。
以上に対して、誠意ある回答をよろしくお願いいたします。
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