5.漏水プールによる被ばく者の死亡


(1)六ヶ所再処理工場での労働者の被ばく死
 1997年9月から2004年1月までの6年4ケ月間、主として加圧水型原発
(泊、伊方、高浜、大飯、敦賀2、美浜、玄海)、六ヶ所再処理施設の定期検査の現場
で放射能漏れ等の非破壊検査に従事した喜友名正さんは、累積被ばく線量99.76m
Svを被ばくして、死亡した。ご家族の方が労働災害認定を求めて、現在は調査中の段
階である。原発被ばく労働者喜友名正さんのご家族が、労災認定を求めている経過をま
とめると、以下のようになる。

@1997年8月に非破壊検査を行う会社の孫請け企業(サンエックスコーポレーショ
 ン有限会社)に入社。

A19977年9月から2004年1月までの6年4ケ月間、主として加圧水型原発 
 (泊、伊方、高浜、大飯、敦賀2、美浜、玄海)、六ヶ所再処理施設の定期検査の現
 場で放射能漏れ等の非破壊検査に従事。累積被ばく線量99.76mSv。

B2004年1月、体調不良で退職。県立病院入院。2004年5月琉球大学付属病院
 で悪性リンパ腫と診断。2005年3月、53歳で死亡。

C2005年10月28日、遺族が大阪の淀川労基署に労災申請。
 2006年9月4日、不支給の決定、代理人への説明:悪性リンパ腫は、電磁放射線
 に係る疾病の業務上外の認定基準(労働省基発第810号)に対象疾病として掲げら
 れていないので、対象外と判断した。

D2006年10月23日、代理人を通じて大阪労基局の労働者災害補償保健審査官あ
 てに不服申し立て(審査請求手続き)。

E2007年6月8日の支援者による政府交渉とその後の要請の結果、6月20日、厚
 生労働省から「大阪と連絡をとったところ、ご指摘の通りでした。要請の通り、りん
 伺に戻し、再検討をいたします。」との回答が出た。
 (注1)りん伺:資料を添えて上級機関に判断を求めること。

F6月下旬、淀川労基署りん伺の準備開始。審査官による審査は一時中断。

G8月22日、淀川労基署から労基局へりん伺

H現在調査中

 喜友名正さんは、表1「喜友名正さんの被曝労働」を参照すれば分かる通り、6年4
ヶ月間の勤務期間中に、99.76mSvを浴びたことになっている。しかし、勤務日
数を数えると、合計で861日であり、平均的な線量は0.11mSv浴びた計算にな
る。

 彼は、出稼ぎ労働者として、非破壊検査の仕事に携わり、必要があるときだけ呼び出
されて、作業現場に派遣され、そして終わればまた、沖縄に帰るという生活の中で、そ
の働いた分しか仕事をもらえない。つまり、被ばくする労働だけをさせられてきた。会
社から手厚い保護を受けたわけではなくて、厳しい放射線被ばくを強制されてきた。こ
の表を見ていくと、1箇所の原発サイトで多くの被ばくをするということではなくて、
各原発サイトを細かく回して、最終的に本人に20mSvシーベルト近くまで被ばくさ
せていると見て取れる。しかも、2002年1月15日から2003年1月9日までの
間には、1年間で23.88mSvも被ばくしている。それが50mSv未満だし、年
度内で区切れば年間20ミリシーベルト超えないということになるので、法律上は問題
がないということになる。

 こういう下請け労働者に被ばく作業を押し付けて、定期点検が行われることで、安全
確保がようやく保たれているのが原子力発電所である。まさに、労働者の命を犠牲にし
て、運転しているのが、原子力発電所の実態であることに、多くの人が気づくべきだ。

 ただ、この表のもう一つの見方として考えられるのは、それぞれの原子力発電所等の
現場においては、許容線量以内の被ばくしか与えてないことである。原子力発電所にし
ろ、核燃料取り扱い施設にしろ、急激な健康障害が出るような高い線量は出ていない。
ところが、各施設において低い被ばくをしても、何箇所も回ることで、高い線量の被ば
くとなるのだ。

 この方式だと、被ばくをさせた原子力発電所の管理者にはその責任は及ばない。なぜ
なら、彼らはメーカーに点検を依頼し、元請、下請け、孫請けのそれぞれが労働者の管
理を行う図式になっているので、結果的には孫請け会社が労働者の被ばく量を把握しな
がら、次の被ばく現場に送り込んでいるのである。

 このような電力会社による被ばく作業の強制が、今回の喜友名さんだけでなく、多く
の労働者に強制されている可能性が高い。

 なぜ、線量制限を守ったのに、喜友名さんが死亡したのであろうか。その原因は二つ
考えられる。
_______________________________________

 1.被ばく労働問題について
 2.東海再処理工場での被ばく事例
 3.六ヶ所再処理工場の被ばく事例
 4.なぜ「その他」に被ばく者が多いのか
 5.漏水プールによる被ばく者の死亡
(1)六ヶ所再処理工場での労働者の被ばく死
  (2)横行する被ばく線量のごまかし
  (3)許容線量は安全か
  (4)漏水プールの補修作業での被ばく
 6.被ばく線量の安全裕度とは
 7.青森県知事が被ばく労働を進めるわけ
 8.被ばく労働をなくすため、原子力産業と決別せよ


トップへ
戻る