6.被ばく線量の安全裕度とは


 2007年8月31日、日本原燃は再処理工場の第4ステップを始めた。即座にせん
断が始まると思っていたが、9月6日の原子力安全委員会主催のMOX工場の公開ヒア
リングが終わるまでは遠慮していたようで、9月7日からせん断が始まり、膨大な量の
放射性物質が排出されていた。もっとも、10月1日にせん断が止まり、現在は補修中
なので、主排気塔からの放射能の排出は少なくなっている。

 私たちは、これまでは敷地境界の外に排出される放射能が、大気と海に影響を与える
ことを大きな問題としてきた。それゆえに、敷地境界の外での公衆の被ばく線量を問題
としてきている。その場合の問題になる放射能は、公衆が被ばくすることが許容されて
いる線量である年間1mSv以下である。そして、日本原燃が発表する数字は、1年間
に0.022mSvを超えないというものである。

 この数字が、1年間の自然放射線である1mSvに比べればはるかに少ないというこ
とから、このぐらいは許容線量内であるといわれているということで、再三事業者から
説明がされてきたし、また国からも安全審査で十分に守れる数値というお墨付をもらっ
て現在に至っている。それだから、第4ステップで放出されてる放射能についても、格
別大きな問題がないというのが、彼らの基準である。

 しかし、許容線量というものについて、今一度考えておく必要がある。
いわゆる放射能が発見され、科学的な研究対象として取り上げられてから、まだ100
年足らす。その中で、さまざまな放射線の影響、特に人体への影響について解明が進ん
できていると、原子力の科学者らは胸を張る。

 彼らの認識を持ってすれば、広島・長崎での原爆においては、高レベルな線量の被爆
であり、急性障害について解明が進んだとされている。実際、広島・長崎原爆における
被爆者が、アメリカの機関に運び込まれて、放射線が人体に与える影響について、詳細
なカルテを取られて、後々原子力施設における安全余裕の基準に用いられた経緯があ
る。つまり、被爆者がモルモットとして扱われた事実がある。

 そして、チェルノブイリ原発事故においては、ロシアの全土での低線量被ばくでの人
体への影響の実験が進行しているという。チェルノブイリ原発事故においては、広島長
崎のような大きな劇的な放射能を帯びたわけではないので、多くの人はまだ生きてい
る。しかしながら、放射能の低線量被ばくが、このぐらいは人間が被ばくしてもいいの
かどうかを区別する基準つくりに用いられてきたことを、私たちは忘れてはいけない。
かように、人類への災禍も、原子力の科学者にとっては、研究材料となるのである。

 さて、人類に対して大きな被害を与えた悲しい出来事ともに、ようやく放射線が人体
に及ぼす影響について、学問上明らかになってきているとこである。しかしながら、そ
の人体への許容線量というものは、どの位が適正なのかについて、なかなかに判定がで
きていないという実態もある。

 放射線に対して、特別強い耐性のある方もあるし、耐性の弱いケースもある。だか
ら、放射線に被ばくした場合に、それが人体に与える影響を平均的な数値としてあげる
ことはできないわけである。ここまで浴びても健康に影響があるか、ないかの線量の数
値のことをしきい値という。ここまでは影響がない範囲、ここからは影響が出る範囲の
特定は未だになされないでいる。

 このしきい値が、放射能が発見された時代から現在までの間に、どのように変わって
きたかの経緯を見ることによって、放射線が人体に与える影響について、人類が、他の
人類への被害を与えた事実を基にして、その適正な数値を探り続けている。つまり、放
射線を被爆していいしきい値を探り当てる作業を続けているのが、現在の原子力科学の
限界である。

 それゆえに、先に紹介したICRPの勧告は、過去において何度か見直され、そして
線量設定が低減化されている事実を見ても、それは放射能の影響を現実に受け止めて、
そして、その影響を抑えるために、許容線量が低く推移してきた。

 原子力科学者の中には、原子力発電所での被ばく作業での死者の数が、車の運転によ
る交通事故発生確率に比べて低いので、車に比べて原子力発電所がはるかに安全だとい
う者もいる。

 確かに、原子力事業所にはここ数十年の間に労働者が約30万人〜40万人以上が従
事している。その中で労働災害認定された数は1桁の9名である。そこだけを見ると、
交通事故での死者に比べればはるかに少ない。いわゆる放射線の影響の方が、交通事故
に比べてはるかに低いと、こういう言い方をされている。だが、労働現場において労働
災害認定されたケースで、被害者が生存しているケースは1件しかない。それ以外は、
労働現場で働いて死んで、家族が、労災認定を勝ち取ってきたというのが現実である。

 それ以外の方にも健康障害や死亡が訪れているが、多くの場合は、会社ぐるみでこの
労働者に対して、或いは遺族に対して、労災認定申請をしないでほしい。原子力施設が
危険なところだということを吹聴しないでほしい。こういう要請がなされてきたと言わ
れています。それ故、実際には、もっと多くの方が病気になり、亡くなっていると言わ
れていますが、その事実が葬られてきた。その中で、どうしても遺族が、本人の名誉回
復のためにと、戦って勝ち取ったのが、労災認定のされた方々の一覧表である。
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 1.被ばく労働問題について
 2.東海再処理工場での被ばく事例
 3.六ヶ所再処理工場の被ばく事例
 4.なぜ「その他」に被ばく者が多いのか
 5.漏水プールによる被ばく者の死亡
  (1)六ヶ所再処理工場での労働者の被ばく死
  (2)横行する被ばく線量のごまかし
  (3)許容線量は安全か
  (4)漏水プールの補修作業での被ばく
6.被ばく線量の安全裕度とは
 7.青森県知事が被ばく労働を進めるわけ
 8.被ばく労働をなくすため、原子力産業と決別せよ


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7.青森県知事が被ばく労働を進めるわけ